かつてヨーロッパでは、世界の果てに様々な異形の生き物が存在すると思われていた。
犬の頭を持つ人間や一本の大きな足を持つ人間、そして頭が無く胸に顔のある人間などである。
頭の無い奇妙な種族はブレムミュアエやアケパロイと呼ばれ、古代の書物に度々その存在が記述されている。
(画像)異形人の版画。1544年「Cosmographia」より
(画像)左から、ブレムミュアエ、スキアポデス、キュクロプス
その最古のものは、紀元前5世紀にギリシアの歴史家ヘロドトスによって記された「歴史」という書である。
それに依れば、頭部が無く胸元に目のある生き物がリビヤの西部に生息しているという。
そこは樹木が生い茂り野生動物に満ち溢れている場所で、他にも巨大な蛇や角の生えたロバ、犬の頭をした人間等が生息しているそうだ。
古代ローマ時代の学者ストラボンが記した「地理誌」にも無頭人の記述が存在する。
そこでは無頭人が、異形の怪物としてではなくブレムミュアエという人間の一種族として語られている。
「地理誌」に依れば、ブレムミュアエはナイル川を紅海の方に向かって進んでいった先のヌビアの南部に居住しているという。
また、古代ローマの学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥス(通称:大プリニウス)の著書「博物誌」にも、頭の無い種族ブレムミュアエに関する記述がみられる。
無頭人の話は中世まで受け継がれ、14世紀にはイングランドの騎士ジョン・マンデヴィルが記した「東方旅行記」にてその姿が挿絵付きで記されるようになった。
そこには、「頭の無い呪われた醜い種族であり、彼らの目は肩についている」、と記述されている。
また、その生息地はアジアの島だとされている。
16世紀から17世紀にかけて活動したイングランドの探検家ウォルター・ローリーも、頭の無い種族の存在について述べている。
ウォルター・ローリーに依れば、その種族は南米のギアナに住んでいるという。ローリーは無頭人の存在を又聞きでしか知らず自身はその姿を見たことが無いものの、彼はそのような種族が実在すると信じていた。
(画像)1493年「Nuremberg Chronicle」より
(画像)1445年「Guillaume Le Testu」より
(画像)無頭人と対面するアレクサンドロス大王。1445年「BL Royal MS 15 E vi」より
(画像)1599年「Sir Walter Raleigh’s The Discovery of Guiana」より
生息地など細部は異なるが、無頭人の存在は古代から語り継がれてきたようだ。
一体、その正体はなんだったのだろうか?
ある学者は、実際に肩が極端に高く頭が体にめり込んでるような身体的特徴の民族がかつて存在したという。
また別の説では、頭をすっぽり覆い隠すような民族衣装や被り物した民族、あるいは、類人猿の容姿が曲解されて伝わったのでは、というものもある。
(画像)ボノボ。この様な類人猿がブレムミュアエ伝説につながった?
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