木の枝で作られた巨大な人型の檻の中に隙間なく詰め込まれた人々。
下の画像は18世紀に書かれたイラストだが、いったい彼らが何をしているのか、このイラストを見ただけで理解できる人は少ないだろう。
(画像)18世紀に描かれたウィッカーマンのイラスト
この巨大な人型の檻はウィッカーマン(小枝の人間)と呼ばれ、中に閉じ込められた人々は神に捧げる生贄としてウィッカーマンごと燃やされたのである。
このなんとも残酷かつ奇妙な儀式を行っていたのは、現在のイギリスやフランスに位置する地域に住んでいた古代ケルト人のドルイド達である。
ドルイドとは当時のケルト人社会に存在した階級のひとつである。ドルイドは上流階級に位置し、その役割は政治や宗教の指導、争い事の調停、そして神と人間とを繋ぐ祭司であったと考えられる。
(画像)ドルイド
しかし、古代ケルト人は文字を持たない民族であったため、ドルイド自身が自らについて記述した資料は存在していない。
そのため、現存するドルイドに関する資料は全てドルイド以外によるものであるが、そのうちのひとつはユリウス・カエサルが記した「ガリア戦記」である。
そこには、ドルイド及びケルト人について「彼らは非常に迷信深く、人の命のためには人の命を捧げない限り、神の恵みを受けることは出来ないと信じている」と記されている。
そのため彼らにとって人身供犠は疫病や戦争等、社会に重大な危機が起きた際の慣例であったと考えられる。
カエサルはまた、その儀式の方法についても記している。それに依れば、肢体が枝で編まれた巨大な人間の像の中に生きた人間を詰め込み、それを燃やして中にいる人間を炎の中で息絶えさせるのだという。
また、古代ローマ時代の学者ストラボンが記した「地理誌」にも、ドルイド及びケルト人に関する記述が存在する。
それに依れば、ケルト人は生贄用として藁と木でできた巨像を作り出し、その中に牛や野生動物、そしてあらゆる人間が放り込まれ、燃やされたという。
ウィッカーマンはローマによるガリア地方の支配が強まるにつれて次第に行われなくなったと考えられるが、1973年制作のイギリスのホラー映画「ウィッカーマン」にて映画の題材となったり、世界各地で巨大な木製人形を燃やす催しが行われたりと、現在も人々の記憶に残されている。
(画像)ポーランドで行われたウィッカーマンのイベント。もちろん中に人は入っていない
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